マスキングテープ「mt」- masking tape -

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積み重ねた知見・技術が、 災害時に役立つアイテムに。 「倉敷テープ」開発秘話

#03『誰かとmt』
粘着技術 × ユーザーニーズから生まれた新しいmt
倉敷市消防局 古波千秋さん

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カモ井加工紙(以下、カモ井)の技術を集結した、社会を支える新しいアイテムが続々と生まれています。
災害時の捜索活動などに使用される「倉敷テープ」もその1つ。開発のきっかけを倉敷市消防局の古波千秋さんにうかがいました。

 

倉敷テープが生まれるきっかけになったのは、2018年6月~7月に起きた西日本豪雨(平成30年7月豪雨)でした。倉敷市の真備町では大規模な浸水被害が発生。水が引いた後も、行方不明者が多数いたため、警察・自衛隊と連携して捜索活動が行われました。

「建物等の捜索が完了した場合、完了したことを示すマーキングを行うのですが、警察・自衛隊との調整がうまくいかず、何度も同じ建物を捜索してしまう状況が発生しました。災害を振り返ったときに、現場の隊員から誰もが使いやすいマーキングができないかと声があがり、地元の企業であるカモ井さんに相談させていただきました」

連絡を受けたカモ井の高原は、この相談に対し、これまでの技術で対応可能だと思ったと振り返ります。

「特殊な幅のテープではありましたが、当社の技術で作れるだろうと思いお受けいたしました。耐久性、粘着性、文字の書き込みやすさなどは考慮したものの、試作品を実際に現場で使っていただくと、手で簡単に切れにくいことや、剥がしにくいなどの作業上の課題点もいくつか残っていました」

そうして2021年に開発された第1弾のテープは、2022年一般財団法人全国消防協会が開催する「消防機器の改良及び開発並びに消防に関する論文」において会長賞を受賞。その後、より本格的な改良を加えていくことになります。倉敷市消防局の古波さんもここから参画することになります。

 

初代のデザイン。当初は倉敷市消防局の中だけで使う予定だったため、倉敷市消防局という文字が入っていました。

 

「第1弾のテープを開発した頃、私は外部の機関に出向していました。帰任し、テープを見たとき、『これはすごくいい。改良したら全国の消防本部で使えるものになる』と直感的に感じました。

捜索完了時のマーキングに関しては、2014年4月に総務省消防庁からの通知で示されていたのですが、スプレーで建物等に直接書き込むことを基本としています。簡易性に欠け、直接書き込めば建物等に損害を与えてしまうことにもなりますし、被災者の心情を考えると使いづらいなどの課題があります。マスキングテープの『貼って剥がせる』という特徴は、建物を傷めず、捜索活動時に最適です」

さらに、マスキングテープは被着体を選ばない粘着力があることから、多様な場所での捜索活動に最適です。より改良を加えることで、全国で使えるテープになる──そう確信した古波さんはカモ井に相談をします。それは、手でちぎりやすいようにミシン目をつけること、そして手袋をしたままでも剥がしやすいようにノリづけしていない部分を加えてほしい、というものでした。

「開発にあたり何度も意見交換をしました。カモ井さんからも『厚みがあるほうがしわになりにくいんです』とご提案をいただきました。ノリづけのない部分を作ることも、ダメもとでカモ井さんにオーダーしたのですが、しっかり実現していただけて。現場目線で言うと、毎回手袋を外してテープを剥がす手間もなく、使いやすさが圧倒的に向上しました」

厚手の和紙を使用しているため、空気が入った際にしわになりにくいのも特徴で、開発に携わったカモ井の北嶋も、次のように言います。

「粘着剤も簡単に剥がれないものにするなど工夫をしました。これは工業用のテープで培った技術を活かしています。また素材には樹脂なども入れていますので、多少雨に濡れたくらいでは破れないような強度になっています」

古波さんは、カモ井との改良調整と並行して、岡山県内のすべての消防本部に自ら出向き、県内の消防本部で改良したテープを統一的に配備することについて呼びかけを行いました。また、実際にアパートの火災などで避難誘導した印として使用するなど、まずは倉敷市内で使われ始めました。倉敷テープというネーミングも、倉敷市消防局やカモ井加工紙のある倉敷から全国に広がってほしいという思いをこめて、古波さんが名づけたものです。

そうして2022年11月、第2弾のテープが完成し、岡山県のすべての消防本部に配備され、使用が開始されました。

2022年に完成したテープ。ミシン目があってちぎりやすく、ノリづけしていない部分があり、剥がしやすい。厚みがあってシワになりにくいのも特徴です。
倉敷テーフ115mm×15m(ラベルは1本に約100枚)/税込¥2,200

 

「岡山県内の消防本部で統一した後、使用感や課題を調査しようと他県の消防本部にもサンプルをお送りしたところ、『購入したい』という声が多く寄せられました。そして最終的に市販化のきっかけになったのは、2024年1月に発生した能登半島地震です。石川県に緊急消防援助隊として出動した神奈川県の相模原市消防局の隊員がこのテープを使ってくださいました。帰隊後、正式に導入したいということで直接カモ井さんに連絡がいき、そこから市販化につながりました。現場の視点から見ても、この倉敷テープは、災害時の活動に欠かせないものになっていくと思います」

最後に、マスキングテープ自体の持つ可能性は、まだまだ大きいと古波さんは語ります。

「たとえば、災害時に活躍するボランティアさんたちは、服に自分の名前を貼って活動するのですが、それが剥がれやすいという問題もあるので、こういうテープだったら粘着力も強いので使えるのではと思いますし、災害後の建物に被害判定の印をつける際などにも使えそうです。また、さまざまなすてきなデザインのあるmtブランドを活かして、殺風景な避難所内を彩るテープとして使ったり、子どもたちが自分の持ちものに名前を書いて貼ったりできますし、そういった工夫でみんなの心も少しは癒されるのかなと思いますね」

もともとは工業用テープとして生まれたカモ井のマスキングテープ。長い歴史の中で培った粘着技術や紙質の選択などの知見・技術が詰まった倉敷テープは、災害時だけでなく、さまざまな場面で役立つアイテムとして今後も社会を支えていきます。

 

 

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